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世界のすべての六月
院長ブログ
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2026/07/01 院長のひとり言
世界のすべての六月

梅雨に入ると、雨が続く。早くも台風が首都圏に直撃してくる。子供のころは梅雨が嫌いだった。昼休みや体育の時間に校庭に出られない小学校生活は、それだけで苦痛なのだ。ジューン・ブライドというけれど、6月に結婚することのどこがめでたいのだろうとも思った。欧州の6月がすごしやすい季節だからという説もある。でも今年はすでに、ヨーロッパ各地を40度の熱波が襲って多数の死者が出ている。世界のどこにも、もう安寧な6月はないのかもしれない。例年、この時期はすでに猛暑の片鱗を見せているものだけど、今年は拍子抜けするほど過ごしやすい。夜などは寒くて目が覚めてしまうくらいだ。いや、油断はならない。去年の10月くらいのブログで、あまりの暑さに文句垂れているのだから。朝から雨が降る日はアスファルトの匂いが強く立ち上り、その中を長靴を履いて傘を差しながら登校する子供たちを途中まで見送る。学校までの距離が長いから、荷物がたくさんある月曜なんてちょっと可哀想になる。でも、静かに雨が降る夜などは、(子供が寝静まっていれば)その雨音を聴きながら本でも読めたら穏やかでいい。YouTubeを見るとそんな「雨降りASMR動画」もたくさん出てくるし、雨音の需要というのは確かに世の中にあるのだろう。

 

しかし、雨が降ると、来院される患者さんは減る。それも如実に。特に開業当初などは顕著で、雨の日など片手で数えるくらいの人数の日もあった。今思えばあまりに短絡的なのだけど、もはや世間から必要とされていないのではないかと思えてくるし、当時は自分の価値と結びつけて考えてしまうこともあった。勤務医のときはどうだっただろう。「雨の日の外来は患者さんが少なくて楽だな」なんて思っていたのだっけ。思い出せない。総合病院だと結局、雨でもあまり人数は変わらなかったかもしれない。電話もなかなかつながらないし、だいたい大事な検査予約まで紐づいているから、当日の変更もハードルが高かった。しかしクリニックだと、その日に必ず受診しなければならないという特段の理由もない。大雨が降ると、ずっと診察室で本を読んでいた。そんなときに電子書籍というのは便利だ。Wi-Fiさえつながっていれば、新しい本がその場に降りてくるのだから。紙の手触りはないけれど、活字が手元からなくならないという安心感はありがたい。そして、読書にも飽きてくると、いそいそとこのブログを書きつづっていた(なのでブログの更新がはかどるというのは、経営的にはよろしくない状況なのだ)。手持ち無沙汰で、その日2周目くらいの拭き掃除をしてくれているスタッフにもなんだか申し訳ない気分になってくる。閑古鳥が鳴くというのは、まさしくこういう状況を言うのだろう。しんとした待合室のどこかから、本当にカッコウと聞こえてきそうな気さえしてくる。

 

開業するまで特に天候を意識したことはなかったけれど、雨を恨めしく思うのは自営業でお店をやっている方なら、誰もが通る道なのだろう。「雨くらいでビービー言うな」と諸先輩方から言われそうだ。でも病院が賑わっていることが社会的によろしいことかどうかは別として、しがない経営者の立場で考えれば、やはりある程度は患者さんがいてくれる方が精神衛生的には良い。何事もほどほどがいい。閑散も混雑も、クリニックにとっては好ましくない。当院の初診用問診票の、ご職業の欄に「自営業」と書かれる方は結構多い。何をされているのだろうと聞いてみたくなることもあるが、診療の時間にも限りがあるので、そこまで話が進むことはほとんどない。もちろん自営業にも様々な業種があるわけだけど、この方は何かお店を経営されていて、僕と同じように今日の天気を気にされているだろうか、とも思う。かつて経験されたであろうコロナ禍と比べたら、梅雨の影響などかすり傷のようなものだろうか。もし、今一度コロナ禍のような状況に陥ったら、僕はそれをしのぐことができるほどの才能や運を持っているのだろうか。雨音を聴きながら、ふとそんなことを考える。

 

そんな折、お風呂に入っている時に、壁に貼ってある四字熟語表が目に入った。トイレに貼られている日本地図と同様に、当の子供たちはもう誰も見向きもしない。くしゃくしゃになりながらも、かろうじて壁に張り付いているやつだ。そこに「晴耕雨読」という四字熟語があった。晴れた日には田畑を耕し、雨の日には家にこもって読書をすること。悠々自適の生活を送ることをいう。そう、先人たちが「雨の日くらい本でも読んどけ」というのだから、そうするしかない。しかし、なんだか良い四字熟語じゃないかと思う。そんな名前の日本酒や芋焼酎がありそうだし、いつかバーや珈琲店の店主になるのなら、その店名にするのも悪くない。ちなみに同じく開業医をしている医学部の同期が、今度ビアバーを立ち上げるというのだから、本当に人生何があるかわからない。もちろんそれは、ひとえに彼女の圧倒的な行動力によるものだけれど。

 

この時期になると、お中元の案内が百貨店から来る。これも梅雨の風物詩だ。こんな行事も、勤務医のときはまったく縁がなかった。勤務医時代の僕の周辺にはそういった習慣はなかったから、気にもしていなかった。しかし、そういえば会社員だった父が、お中元について母とよく話し合っていたことを思い出した。いざ会場に行くと、受付にびっくりするほど行列をなしている。見渡せばご年配の方ばかりだ。年賀状と同じように、個人間での贈り物の文化はこれから廃れていくのかもしれない。でも事業をしていると、心からありがたいと思うご縁に出会うことも少なからずあるし、それを年に2回、形にするのは大事なことだろう。6月が自分の誕生月だから、またひとつ歳をとった。高校も大学も毎年クラスの同窓会があるのだけど、参加して周りを見渡せば、相応に時はその取り分をとっている(不思議とまったく変わらない人もいて、残念ながら平等にとはいえないのだけど)。もちろん僕の見た目も例外なく。この歳になってあまりそういう機会もないのだけれど、百貨店でお中元を購入するというのは、「少しはちゃんとした大人になったのかな」と思える瞬間でもある。