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My foresight is…
院長ブログ
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2025/10/29 院長のひとり言
My foresight is…

昔からよく言われるように、「後医は名医」ということわざがある。後から診る医師の方が、先に診る医師より的確な診断や治療を行いやすい──そんな意味の言葉である。診断も治療も、もちろん一発で当たるに越したことはない。しかし、残念ながら思うような結果が得られない場合は、後を引き継ぐ医師も出てくる。そして、その後医が名医に見えてしまうことが多いという話だ。

 

英語では“Hindsight is 20/20. ”というらしい。Hindsightとは「後知恵、後になってからの判断」のこと、20/20(twenty twenty)というのは、両方の視力が2.0ということ。つまり「後から言うのは簡単だよ」という意味だ。多少ニュアンスは違うが、「後医は名医」にもそんな皮肉が混ざっている。

 

「A医師の治療ではよくならなかったが、B医師の治療で改善した」というケースがあるとする(実際、医療機関にはこういう口コミを多く見かけるかもしれない)。A医師があるひとつの診断に固執していたのなら、患者さんにそっぽ向かれても致し方ないだろう。一方で、A医師の頭の中には「まずこの治療を試し、改善がなければ次の段階へ」という計画があったかもしれない。しかしその意図の説明が伴わず、患者さんがその前に離れてしまえば、実行に移せない。患者さんはため息をつきながら別の病院へ行って、「こういう診断でこの薬をもらったけれど、良くならなかった」と訴えることになる。そしてそれは、後医であるB医師にとって大きなヒントとなる。「ひとつの診断可能性とひとつの治療選択肢が除外された」状態からスタートできるから、当然、診断も治療も当たりやすくなる。

 

テニスプレイヤーは、ファーストサーブは思い切りフラットに打つが、セカンドサーブはスピンをかけて安全に入れにいく。ダブルフォルトは避けなければならないからだ。A医師はファーストサーブを放った。それが失敗に見えても、彼にも言い分はあるかもしれない。同時に、B医師のセカンドサーブが無事にコートへ収まったとしても、必ずしも名プレイヤーとも限らない。

 

疾患によっては自然に治癒するものもある。いくつかの疾患を同時に考慮しなければならない症状もある。正しい治療であっても、すぐに効果が現れないことも多い。そんなこんなで、あらゆる診療はすべからく時間を味方につけなければならない。よってA医師は、こうした説明を添える必要があったかもしれない。「この診断が正しいとは限りません。まずこの治療を行い、改善がなければ次の可能性を考えましょう。その際は○○頃に再診してください」と。B医師の方は「うーん、なんだろうなこの治療は」などと言って、前医の治療を一方的に否定したり患者さんの不安を煽ったりする言及を避けなければならない。矢折れ羽折れた一番槍を後ろから狙撃するような真似は、フェアではないし誰も得をしない。必要なのは、これを根拠にこう診断してこう治療するという自分なりに考えた筋道を、悩む患者さんに改めて表明することだ。

 

僕のもとにも、他院で改善しないと訴える患者さんが来院される。その一方で、一度だけ受診されて、その後再診に至らなかった方もいる。症状がまるっと消失して満足されたのかもしれないし、逆に改善せずに別の医療機関で解決されたのかもしれない。あれからどうなったのかなと思いを馳せることもあるけれど、足を運んでいただけなければ残念ながら知りようがない。

 

患者さんには、医師や医療機関を変える権利がある。でも短期間で転々とすることは、結果として患者さん自身の利益にならないことも多い。診断確定や治療効果の判定には、ある程度の時間が必要な場合がある。とはいえ、ひとりの医師で完結しない疾患や、なかなか確定しない診断も存在する。だからこそ、三人寄れば文殊の知恵ではないが、医師同士が自ら得意分野を以てお互い補完しあう必要がある。自分のもとに患者さんが通い続けることが利益とならないと思えば、しかるべき専門性を持った医師にバトンを渡す必要がある。医師にはそのことを忘れないだけの謙虚さが求められる。

 

今回は、すべて自戒をこめて。