月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日/祝 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
9:00~12:30 |
~13:00 |
||||||
14:00~17:00 |
二十四節気では大寒、寒さが最も厳しくなる時期とされています。冬は頻尿の方に厳しい季節です。今まで性感染症についての疾患解説を行ってきましたが、今回は泌尿器科らしく頻尿・夜間頻尿・尿漏れをまとめて解説しようと思います。少し長い内容ですが、お時間ある方はぜひ最後までお付き合いください。
1. 頻尿
◆ 定義
頻尿とは、日中や夜間を問わず、トイレに行く回数が増えてしまう状態を指します。一般的に1日8回以上トイレに行く場合を頻尿と定義されますが、個人差がありますので8回を超えたから問題があるとは一概には言えません。1日何回トイレに行ったかはメモでもしないと思い出せませんが、日中でも2時間持たないというのは頻尿のひとつの目安と考えて良いと思います。映画やバス旅行に行けない、いつもトイレの場所を最初にチェックする、間に合わずにちょろっと漏れてしまうといった悩みは、解決が可能です。年齢のせいとあきらめずにご相談ください。
◆ 主な原因
・膀胱の過敏:
過活動膀胱と呼ばれる疾患で、少量の尿でも膀胱が強く収縮してしまうことがあります。水仕事をしているときや、ドアノブに触れたときなど、特定のタイミングで強い尿意を感じることがあります。
・尿路感染症:
女性では膀胱炎、男性では前立腺炎や尿道炎(性感染症も含む)が多いです。あるとき急に頻尿になり、かつ排尿時の違和感などを伴うのが特徴です。
・糖尿病:
高血糖により尿量が増え、かつ口渇のため飲水も多くなり、頻尿になることがあります。また糖尿病の長期間の罹患は、末梢神経の障害を起こし膀胱の機能を低下させます(神経因性膀胱といいます)。
・心理的および習慣的要因:
ストレスや不安が原因で頻尿が起こることもあります。多飲多尿といって、普段から大量の飲水をしてしまう方もいます。習慣性・心因性の場合もありますが、ホルモンの問題であること(尿崩症)もあるので調べましょう。こういった場合には排尿日誌の記載が有効です。また、多飲の理由として多く見られるのが「内科の先生にたくさんお水飲んでと言われたから」というものです。特に腎不全や脳梗塞などの既往がある方は、そう指導された経験があるかもしれません。もちろん脱水はよくありませんが、過度の飲水によって血液がよりサラサラになるということはありません。必要以上の飲水をすれば、余分な水分が尿として排出されてしまいます。1日の適切な飲水量は1kgあたり25ml(60kgの方で1500ml)程度とされています。その他食事にも水分は含まれています。夏場など発汗が多い時期は少し多めに設定しましょう。
・認知症:
ついさっきトイレに行ったことを忘れてしまう、適切なタイミングで排尿できないなど、認知症による影響で頻尿が起こることがあります。
・寒冷刺激:
冬季には冷えによる膀胱の筋緊張や尿量増加が頻尿の悪化につながることがあります。
◆ 治療法
・飲水習慣の見直し:
カフェインやアルコールの摂取を控えることが効果的です。カフェインはコーヒー・紅茶・緑茶などに含まれますし、最近急増したエナジードリンクにも注意しましょう。私も外来中や手術前にカフェインが入った飲料は飲みません(トイレに立てませんから)。今たまたまミルクティーを飲みながらこの記事を書いていますが、明らかに尿量が増加して困っています。カフェインへの体の反応は個人差があるとは思いますが、コーヒーや緑茶を飲みながら頻尿を訴える方によくお会いします。
・薬物療法:
過活動膀胱に対しては、膀胱の過敏性を落ち着かせる薬が処方されます。尿路感染症については適切に抗菌薬治療を受ければ治癒します。
・骨盤底筋体操:
尿道周囲の括約筋(かつやくきん)を鍛え、尿意のコントロールを改善します。骨盤臓器脱(膣の出口から子宮・膀胱・直腸といった骨盤内の臓器が出てきてしまう疾患)の方にも有効です。少しずつでも日課にすることが大事です。
・膀胱訓練:
特に心理的要因の頻尿の場合、少しずつ排尿間隔を伸ばすトレーニングは有効です。
2. 夜間頻尿
◆ 定義
夜間に1回以上トイレに起きてしまう状態を指しますが、臨床的には2回以上を問題とします。かく言う私も最近1回は起きることが出てきてしまいましたが、ぱっと目を覚ましたときに一度尿意を知覚してしまうと、それを無視して寝つくことは困難です。高齢者の場合、夜間のトイレが転倒の原因となることもありますし、介護者が一緒に起きることで大きな負担ともなります。複数回起きている方は、1回でも減らせるよう治療をしていきましょう。深く体を休める眠りである徐派睡眠(ノンレム睡眠の中でも深い)は入眠後3時間までに集中しており、ここを尿意により中断されてしまうと睡眠の質が下がります。逆に入眠後4-5時間の段階で中途覚醒しても、さほど苦痛を感じることがない場合が多いです。
◆ 主な原因
・加齢:
通常は日中に尿を作り、夜間は尿を作らないというメリハリが利いています。しかし加齢にしたがって、夜間に尿を濃縮するホルモン(抗利尿ホルモン)の分泌が減るため、夜間の尿量が増えることがあります。なお就眠中の尿量が1日全体の尿量の1/3以上となると、夜間頻尿の中でも夜間多尿(やかんたにょう)と言われます。
・高血圧・心不全・腎不全:
日中に溜まった体液が、夜間に尿として排出されることがあります。特に下肢のむくみが強い方は、その傾向が強くなります。夕方のうちに湯船につかったり、足を軽く上げた状態で横になる、日中に運動を行ったり弾性ストッキングを履くなどして、足のむくみを寝るまでに解消しましょう。また心不全等で、利尿剤が処方されている方はおのずと尿量が多くなります。
・睡眠障害:
睡眠が浅いと、尿意を感じやすくなります。
◆ 治療法
・薬物療法: 夜間尿量を減らす薬や、過活動膀胱を抑える薬が処方されます。
・生活改善: 就寝前の水分摂取を控え、過剰な塩分摂取を控えます。
・睡眠治療: 睡眠障害が原因の場合は、その治療も必要です。
3. 尿漏れ
◆ 定義
意図せず尿が漏れてしまう状態です。尿失禁ともいいます。
◆ 主な原因
・腹圧性尿失禁: 咳やくしゃみ、立ち上がったり重い物を持ったりするときに漏れてしまいます。骨盤底筋(こつばんていきん)・尿道括約筋(にょうどうかつやくきん)の締まりが弱くなっています。
・切迫性尿失禁: 急に強い尿意を感じてトイレまで間に合わず漏れてしまいます。過活動膀胱や前立腺肥大症が関連しています。
・混合性尿失禁: 腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁が混在する状態です。
・溢流(いつりゅう)性尿失禁: 有効な排尿ができず、膀胱が満杯となって尿が漏れ出ている状態です。すでに腎臓の機能にも影響が出ていることが多く、早めの処置が望まれます。
◆ 治療法
・骨盤底筋体操: 尿道周囲の括約筋を鍛えます。
・薬物療法: 切迫性尿失禁には、膀胱の過敏性を抑える薬が使用されます。また、前立腺肥大症を併発している場合には、それに対応した薬が処方されます。さらに、重症の過活動膀胱の方には、ボツリヌス毒素の膀胱内注射が治療の選択肢として検討されることもあります。
・自己導尿: 溢流性尿失禁や残尿が非常に多い方には、自己導尿を導入します。
・手術: 腹圧性尿失禁に対する手術(尿道スリング手術)が行われることがあります。
—
最後に
私も意外な理由で頻尿を経験したこと(過去のブログ)がありますが、尿量や尿の回数は精緻に調節されており、体の状況を知る重要な情報です。頻尿や尿漏れを含め、排尿機能への加齢の影響はゆっくりと進むため、その状況に慣れてしまい自覚に乏しい場合が多いです。年齢を理由にあきらめずに、日常生活に支障のない、快適な排尿を目指していきましょう。