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野辺山の残像(フラッシュバック)
院長ブログ
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2025/05/28 院長のひとり言
野辺山の残像(フラッシュバック)

※名探偵コナンの映画のネタバレが少しあります。

 

まだ妻と結婚する前の話だが、ふたりでたまにはハイキングでもしようかと思って、関東近辺の低山を本屋で調べた。目に止まったのは、飯盛山(めしもりやま)という、秩父山地の西端にある、山梨県の低山だ。標高 1,643m。中央線の小淵沢駅で、小海線という二両編成のいかにもなローカル線に乗り換えて、森の中をひた走り、清里駅へ。清里といえば、バブル期には「高原の原宿」と呼ばれ、空前のペンションブームに乗っかり多くの若者が押しかけたらしい。休日だったため、同じくハイカーらしい格好をした人が多かった。駅前から少し歩を進めれば、80年代の意匠をまとった、高速道路を走ると一定間隔に出現するラブホテルのような奇抜な建築物がちらほら、しかしほとんどシャッターが閉められている。ガイドブックを片手に登山口を目指すのだが、少し歩くだけで周囲には人の姿は消えてしまった。

 

ほどなく街を抜ければ、緑は豊か。30分ほど歩き、小川を渡り、小さな門が開きっぱなしになった目的の登山口に見えてきた。僕はもうこの時点でだいぶ不安になっていた。日曜くらいもう少し賑わっていてもよさそうなものである。一緒に駅に降り立ったハイカーらしき皆さんはいったいどこに行ったのか。他に目指すべき登山口でもあるのだろうか。メルヘンな廃墟を通り過ぎるあたりで、人のいない異世界に入り込んでしまったかのような感覚だった。『千と千尋の神隠し』で、引っ越ししてきた千尋たちが見知らぬトンネルをくぐりぬけたときのように。

 

加えて僕はハイキングにおよそ不適切な格好をしていた。自分が企画したくせに、白いロングTシャツに青いカーディガン、チノパンにスニーカーという出で立ちだった(写真が残っている)。これなら神保町の古本屋に寄ってカレーを食べて帰るにはちょうどよいが、山梨県の山を登るには誤っている。彼女はしっかり防寒まで考えたアウトドアスタイルだったので、はたから見たらどこに行くアベック(古いけど)なのかよくわからなかったかもしれない。ガイドブックに記されている登山難易度は★☆☆(レベル1)だったので、正直なめていたのだ。しかし、その道のりは本格的であった。整備された登山道とはいえ、深い森の中を懸命に登らなければならない。そしてどこまで行っても、僕たち二人しかいなかった。彼女の手前、これくらいの山道たいしたことないわという顔をしていたつもりだが、能天気な神保町装備の男を前に、彼女も内心不安であったに違いない。

 

登り初めて1時間、逆方向から下山してくる人と初めてすれ違ったときには、心底ほっとした。その後飯盛山の山頂にたどり着くまでまた誰ひとりとして会わなかったが、山頂付近には人がにぎわっていた。どうやら清里と逆側のルートは人気だったらしい。打って変わって見晴らしの良い山道を下ると、広い平沢峠駐車場に出た。そこには「日本の分水嶺」と表記されていた。分水嶺をまたいで、こっち側に降った雨は太平洋側に行って、あっち側に降った雨には日本海側に流れるという場所なのだそうだ。さらに下ると野辺山登山口を通り過ぎ、広大な盆地が開ける。目に飛び込んでくるのは、口径45mの巨大なパラボラアンテナ。野辺山宇宙電波観測所だった。八ヶ岳の遠景に大きなパラボラアンテナという景色を目にして、さぞ夜は星空が近いのだろうと思ったけれど、寄り道することなくのんびり歩き過ぎた。ほど近くには鉄道最高地点(1,375m)を示す石塔があり、そこからまた小海線の単線に沿って歩き、野辺山駅に出た。日が傾くころ、中央線の急行に乗り込み、うたた寝しながら無事新宿に戻った。

 

さて、毎年家族でコナンの映画を見に行くのがGWの恒例なのだが、今年はこの野辺山が舞台であった。例年のごとく、コナンたちの壮大なアクションに否応なく観測所は巻き込まれていく。今年の被害総額はいかほどか。そういえば、昨年の舞台の函館も、僕が幼少期に暮らしていた街なのだ。もちろん劇中では、コナンと平次と怪盗キッドによって壊滅的なダメージを受けていた。来年もまた、思い出の地をコナンくんは破壊してくれるのだろうか。